取扱作家

絵画

高波荘太郎
笠井誠一
稲熊 兼
中上 清
〈物故作家〉
鴨居 玲、脇田 和、難波田龍起、他

笠井誠一

笠井誠一

稲熊 兼

稲熊 兼

陶芸

曜変天目再現の第一人者 九代長江惣吉
現代日本のスリップウェアの第一人者 柴田雅章
荒川 豊藏 唯一の内弟子 吉田喜彦
祈りのかたち 戸田浩二
備前焼 金重 愫
小山冨士夫の内弟子 近藤精宏
桃山の志野を現代に 瀧川恵美子

九代長江惣吉

九代長江惣吉

柴田雅章

柴田雅章

戸田浩二

戸田浩二

彫刻

宇宙の形象を求めて 吉田 隆
静謐な祈り 伊津野雄二

吉田 隆

吉田 隆

伊津野雄二

伊津野雄二

写真

宇宙の気を感じる 六田知弘

六田知弘

六田知弘

工芸


輪島漆芸の老匠 若島孝雄
瀟洒な漆芸 藤野征一郎

現代書の巨人 石川九楊

高波荘太郎

2020年9月26日(土)〜10月20日(火)

日々、不安にさいなまれているが、その感情は取るに足らないものかもしれない。生きる状況は、変わったのかと問われれば、この禍の下では、そう違いない。社会が暗たんとし、言い表せないフラストレーションが渦巻いている。だけれども、少しは、逆にものが見え、幾ばくか呼吸がしやすくなった感はある。

商業的で見せかけだけの欺瞞的な創作が流行り、浮薄の時代に乗せられて自分の目で確かめることをしない。直に触れてはいけない世の中になったというが、好都合である。本物は、触れてみないとわからない。真に見る者だけが、絵を見る喜びと力を得るのだと信じている。

生きることは、絵を描くことか。絵を描く日々が、生を実証ならしめるのか。この画家は、本気で自己に問うている。「現代美術」というフレームの中で、問われる芸術作品であるかないかなど、どうでもよい。一枚の絵が、「わたし」にとってどう作用してくるのか。意識の中に流れ込んでくる深層の創作世界を、ただ見つめ、思いを巡らす時があることに、幸福を感じるのだ。


71歳になった僕は絵を描く事でしか生きている実感を得られません。若い時の恋、友情等の美しい記憶も薄れ増々絵にのめり込んでいます。絵を描いているとある時は砂漠で喉の渇きを潤す水の様でもありお腹が減った時の食事の様にも感じます。そしていつも何か新しい発見がありその時が一番興奮します。

自分の絵が世界に通用するかという命題に50歳を過ぎた頃より強く意識するようになりました。来年は10月にニューヨークでARTIFACT社による3週間の個展があります。ニューヨークの人々の眼にどう映るのか今から楽しみです。

玄羅では3回目の個展となります。画廊主の黒谷誠仁氏と一緒に居ると学生時代の信友の様な気がしますし画廊で笑顔で待っていて下さる方々を思い描くと心も軽やかになります。

どうぞ作品の数々を画廊でご高覧下さい。

9月吉日 髙波壮太郎


略歴

1949年
東京に生まれる
1973年
多摩美術大学油彩科卒業。在学中に中本達也氏に師事
1986年
フランセーズコレクションより東京、パリにて版画集「Nature」を同時発売
1988年
清水凡亭氏と「絵のある俳句展」を京都髙島屋にて開催
1989年
エスパースジャポン(パリ)にて個展開催
新宿京王百貨店にて個展(’90〜’02,’04〜’12, ’16)
1990年〜
髙島屋大阪店にて個展以後毎年開催
1991年
淡淡美術館ギャラリーぼんにて
個展開催(’92,’95,’97,’99,’01,’03)
1992年
髙島屋横浜店にて個展開催
(’94,’96,’99,
’01,’03,’05,’07,’09,’11,’13,’15,’17,’19)
新宿京王百貨店にてガラス絵展を開催(‘93〜’96)
淡々美術館より「髙波壮太郎版画作品集」刊行
1996年
髙島屋岡山店、髙島屋米子店にて個展開催 (’98,’00,’02,’04,’06,’08,’09,’17,’19)
1998年
髙島屋日本橋店にて個展開催
(’00,’02,’03,’07,’09,’11,’13,’15,’18)
2001年
髙島屋高崎店にて個展開催(’03,’06,’08,’10)
2002年
吉井画廊(パリ)にて個展開催。吉井画廊(銀座)、
ギャラリー・ラ・リューシュ(麻布)にて帰国展同時開催
2004年
ルーブル美術館で販売される本「猿俳句12選」の原画展をギャラリー・ラ・リューシュにて開催
ジェイアール名古屋髙島屋にて個展開催(’07,’10,’13)
髙島屋岐阜店にて個展開催(‘09)
吉井画廊(パリ)にて「猿俳句12選」の原画展開催
RMN(Reunion des Musees Nationaux ARLYS
フランス国立美術館連合)より「猿俳句12選」出版
2005年
ギャラリー・ラ・リュ-シュにて「パリを描く展」開催
2009年
髙島屋新宿店にて個展開催(’11,’14,’17)
2010年
笹川平和財団より「THE BEGINNING OF SPACE」
<神々の開闢>中東に向けて刊行。
横綱 白鵬関の化粧まわしの下絵制作
2014年11月
銀座吉井画廊本館、サロンにて同時個展開催
2016年
いよてつ髙島屋にて個展開催
2017年
髙島屋京都店にて個展開催(’19)
2018年5月
金沢・玄羅アートにて北陸初個展
2019年
LAアートショーに出展
モナコヨットショーに出展
12月
スコープマイアミバーゼルに出展予定
2021年
ニューヨークにて個展開催予定

笠井誠一

2019年9月4日(水)〜17日(火)

光の形象

難しいことを、分かりやすく簡単に書く。これがなかなか難しい。難しい言葉を羅列するようでは、まだ真の理解に至っていない―。そんなことを哲学者だったか、誰かが言っていたような気がする。シンプルということの奥深さ。表現にとっては、最大の難関かもしれない。

パリ留学時代、「より美しいものはシンプルなものだ」という思考を、師事した画家のモーリス・ブリアンションから聞かされたという。風景や人物をモチーフにした若いころから、今日の作品は構成的な静物にやがて収斂していく。描いた対象は、ものを見つめた末のエッセンスのみを抽出した結果となる。

余分とは文字通り余分で、画家の目がそぎ落としたものの形とささやかな輪郭線だけで表わされた画面は、過剰とは縁遠い。色彩は一見、平坦でありながら、高い明度で発光するかのようなトーンである。絵全体が持つ絶妙の均衡は、作品が持つ清明さがあってこそ成り立つ世界観にほかならない。

一連の静物画という無機質な物体の構成に、なくてはならない光。この作品をただものではない絵画として存在させている要素だ。生まれ育った北海道の明光に加え、清澄な空気、開放感は体の芯にある。画家の成り立ちを支える大きな影響であるに違いない。何気ないものが存在する画面は、互いが類いまれな構成の力によって共鳴する。そこにあるということは、本当は不確かなことかもしれないのに。抽象や具象、時代感を超えた普遍性のなせる技ゆえだ。見れば、絵画が発する光に研ぎ澄まされて、宇宙の摂理の一端をも感じる思いがするのだ。

黒谷正人


略歴

1932
札幌生
1957
東京芸術大学(伊藤廉教室)卒
1959〜66
渡仏 国立パリ美術学校に学ぶ
1960〜65
サロン・ドオトンヌ(1962年出品作はフランス政府の買上げとなる)
サロン・ナショナル等に出品
1966
帰国
1967
愛知県立芸術大学勤務
1968〜15
名古屋画廊にて個展(22回)
1974〜98
黎の会展
1974〜03
名翔会展
1977〜00
和の会展
1980〜81
文部省在外研究員として渡仏
1982〜84
国際形象展
1985
立軌会同人となる
1990
名古屋市芸術賞芸術特賞
1996
ポメリー中部文化賞
2001
安田火災東郷青児美術館大賞受賞・同記念展
(安田火災東郷青児美術館)
2007〜09
両洋の眼・現代の絵画展
2015
回顧展(札幌芸術の森美術館)
2018
回顧展(練馬区立美術館)
現在
立軌会同人 愛知県立芸術大学名誉教授

稲熊 兼

2019年3月10日(日)〜26日(火)

ストライプなど抽象絵画の中にある表現の要素は、それぞれの現代作家の思考方法によってさまざまに読み解かれてきました。稲熊兼は、平面をビビッドに構成する仕事に魅了された今活躍する注目の画家のひとりです。独自の空間意識を是非ご覧ください。

「生きた線」と「空気を感じる面」への日々のアプローチは、わたしの絵画の根幹をなす要素です。創作の座標軸にあるのは、「呼吸している絵画」。幾何学的にパターン化された要素が構成する色面は、それぞれの関係性の中で存在しています。

人間社会と同じく、生まれた時から個性をつくり上げてきた「似て非なるものの集まり」が世界を創り上げているように、パターンもまた全体の中にある個性や、個性からなる全体と響き合い、わたしの考える関係性を反映した絵画形態をなしていると思うのです。

稲熊 兼


略歴

1978
愛知県生まれ
2000
名古屋芸術大学絵画科卒業
2002
名古屋芸術大学大学院美術研究科卒業

主な個展

2003
2005、2006、2008、2010、2012
稲熊兼 展(さいとう画廊/愛知)
2012、2014
稲熊兼(Gallery noivoi/愛知)
2013、2016
稲熊兼 展(Gallery Valeur/愛知)
2018
稲熊兼 展(高輪画廊/東京

主な展覧会

2000
種の会展(さいとう画廊/愛知)
2007
五差路点(名古屋日動画廊/愛知)
2010
抽象の世界展(さいとう画廊/愛知)
2011
REGION(名古屋日動画廊/愛知)
7人のサムライ展(山木美術/大阪 さいとう画廊/愛知)
2012
7人のサムライ展 in Niigata(D+5 ART GALLERY/新潟)
2013
山口博一・稲熊兼展(兜屋画廊/東京)
2015
加藤昭男と6人の画家たち(さいとう画廊/愛知)
2017
新春展(日動画廊 名古屋/愛知)
Exposition de Peintures -VERON KAI-(Salle des fetes/France)
2018
山田真二 稲熊兼 展(名古屋日動画廊/愛知)
第3回 ヴェロン會(一宮市 三岸節子記念美術館/愛知)
ヴェロン會(高輪画廊/東京)

中上 清

2021年1月8日(金)~31日(日)

前から気になっている言葉がある。
ひとつは岸田劉生の「在るてふ事の不思議さよ」(『詩句ある静物』、1918)そして、もうひとつは、ウィトゲンシュタインの「世界がいかにあるかが神秘なのではない。世界があるという、その事実が神秘なのだ」(『論理哲学論考』命題6.44、1981)である。
ふたつは、今から100年前、同じ時期に書かれたものだ。この両者に、類似以上のもの、あえて同一と呼んでもいいものを、感じ、そして考えて来た。
この、「不思議」「神秘」の感覚は対象に向けて言われている様にも聴こえるけれど、実は、それを見ている、感じている、自分がいるという事実に向けて発したものであろう。
ベクトルをそのように換えた時、哲学は言葉を使って、自らの内に語る事の出来るものを見つけるだろうし、絵画は自らの内に生じている現象を表現しようとする筈だ。
では、その時、絵画で、哲学における〈言語〉に代わるものは何であろうか?

〈光〉だ。ものが見える事、形が現れる事、それを追求し表す事が出来るのは、〈光〉であろう。ウィトゲンシュタインに倣って云えば「神秘なものが描かれる(見られる)のではない。描かれる(見られる)という事自体が神秘なのだ」。

だから、云いたい事、云うべき事、希望する事は、「不思議」「神秘」の感を湧き上がらせる事、「見る度に、常に新しい空間が見えてくるような絵画」つまり「新しい体験となる絵画」。
そして、すなおな希望を言えば。「見てよかったと思う事ができる絵画」。そんな絵画を光を描くことによって、作りたいと思っている。

中上 清


略歴

1949
静岡県生まれ

主な個展

1971
富士見町アトリエ/神奈
1989
ヒノギャラリー/東京('91から2019まで)/東京
1999
「さまざまな眼101 中上清展」かわさきIBM市民ギャラリー/神奈川
2008
「中上清展 − 絵画から湧く光」神奈川県立近代美術館鎌倉/神奈川
2012
「Epiphany」Galerie Richard/パリ、ニューヨーク
2014
「中上清 展」カスヤの森現代美術館/横須賀
2015
ガレリアフィナルテ/名古屋(18)
2018
「Light from Afar Recent Work by Kiyoshi Nakagami」LewAllen Galleries/サンタ・フェ
「Theophany」Galerie Richard New York/アメリカ~2019
2019
「La Beauté Sublime」Art Paris/パリ
2020
「Light in Painting」Galerie Richard/ニューヨーク
ガレリアフィナルテ/名古屋

主なグループ展

1972
「Exhibition Bゼミ」横浜市民ギャラリー/神奈川('73)
1978
「スクラムの外 現前の距離」神奈川県民ホールギャラリー/神奈川
1988
「神奈川アート・アニュアル」神奈川県民ホールギャラリー/神奈川
1992
「現代美術への視点 形象のはざまに」
東京国立近代美術館/東京, 国立国際美術館/大阪
1993
「現代絵画の−断面−『日本画』を越えて」東京都美術館/東京
1995
「今日の日本画 第13回山種美術館賞展」山種美術館/東京
1997
「日本現代美術展」国立現代美術館/韓国・ソウル
2001
「第10回インドトリエンナーレ」/インド・ニューデリー
2004
「琳派 RINPA」東京国立近代美術館/東京
「Art Cologne」Galerie Richard/ドイツ・ケルン
「Art Rotterdam」 Galerie Richard/オランダ・ロッテルダム
「Art Beijing」ヒノ・ギャラリー/中国・北京
2005
「アルス・ノーヴァ−現代美術と工芸のはざまに」 東京都現代美術館/東京
「St’Art」Galerie Richard/フランス・ストラスブール
2006
「日本×画展」 横浜美術館/神奈川
「Mineral II」Centre artistique de Verderonne/フランス・ヴェルドゥロンヌ
2007
「Art Amsterdam」Galerie Richard/オランダ・アムステルダ?
「Arte Fiera」Galerie Richard/イタリア・ボローニャ
2011
「Prolonging Pleasure」 Galerie Richard/パリ
「Pulse Miami」Galerie Richard/アメリカ・フロリダ州マイアミ
2012
「横浜美術館コレクション展 2012年度 第3期 光をめぐる表現」横浜美術館/神奈川
2013
「Context Art Miami」Galerie Richard/アメリカ・フロリダ州マイアミ
2015
「モダン百花繚乱《大分世界美術館》」大分県立美術館/大分
「神々の黄昏」大分県立美術館/大分
2016
「琳派降臨 近世・近代・現代の「琳派コード」を巡って」京都市立美術館/京都
2019
「Rainer Gross, Kim Young-Hun, Kiyoshi Nakagami,」Galerie Richard/パリ

パブリックコレクション

東京国立近代美術館/東京
神奈川県民ホールギャラリー/神奈川
愛知県美術館/愛知
神奈川県立近代美術館/神奈川

脇田 和

2018年11月23日(金)〜12月18日(火)

脇田和が鳥を描くようになったのは、初老を過ぎた頃に病を得、療養中に見舞いとして貰った野鳥のマシコに魅せられてからのことである。以来、野鳥を飼うようになり、様々に鳥を描き続けた。脇田の絵のモチーフとしては、子供や家族、身近な出来事などもあるが、やはり今回の展覧会にみられるように、鳥が一番多いと思われる。

脇田の描く鳥は、数本の線で描かれる。切り抜きのようにシルエットが強調される場合もあるが、細かに色づけされることはなく、極めて簡略化され、抽象化され、なかには鳥という記号が画面に記されているのではと思うことすらある。だが、それでも鳥と感ずるから不思議である。かたちが、鳥のエッセンスを捉えているのであろう。

愛らしく、見るものの心を和ませるものもあれば、くちばしが曲がり、ちょっと憎々しげなものもいる。ついついこの鳥の種類はと考えたりもするが、鳩は見分けがつくが多くは分からない。先ほど“様々な鳥を”ではなく、“様々に鳥を”と述べたのはこのゆえである。脇田の描く鳥だから「脇田鳥」と命名すべきであろうか。

鳥たちは四角の中に配され、画面のテーマを奏で、別の矩形は鳥の思いを展開する。一見平面に見える画面は矩形の重層構造によって、様々な時空を形成する。これは大作も小品も同じである。脇田和の絵ほど両者の差異のない絵はなく、小品はまさに珠玉ということばがふさわしい。見るごとに新たな出会いを感ずる作品たちである。

石川県立美術館 普及課長 二木伸一郎


略歴

1908年
東京都港区青山生まれ。
1923年
青山学院中等部中退。
中退後、ドイツ・ベルリン国立美術学校に入学。
1930年
同校卒業時に金メダルを受賞。
1936年
新制作派協会(現新制作協会)の結成に加わる。
1955年
日本国際美術展で最優秀賞。
1956年
グッゲンハイム国際美術展国内賞を受賞。
1964年
東京芸大助教授となり、70年まで教授として勤務。
1991年
軽井沢に脇田美術館開館。
1988年
文化功労者。
2003年
石川県立美術館で「鳥と語るー詩魂の画家脇田和」展。
2005年
97歳で亡くなる。
2016年
脇田美術館が、317点の脇田作品を石川県立美術館に寄贈。
同館で寄付受納記念展「鳥に詠う」展開催。

九代・長江惣吉

2017年5月1日(月)〜16日(火)

世界に三碗しか残されていない中国・南宋時代の曜変天目。
当時と同じ焼成技術だけで、その再現を試みてきた陶芸家が愛知県瀬戸にいます。
人生のすべてを投じてきたその成果は、中国古陶磁の研究者から今高い注目を集めています。
二万個焼いてみても、虹のような光彩とともに、宇宙の星々のように輝くあの文様が現れた茶碗が生み出されるかどうか…
こうした奇跡的な再現に取り組む長江惣吉の世界をここ金沢でご紹介します。


2019年パンフより

至高のやきもの「曜変」、漆黒の釉面に瑠璃色の光彩で囲まれた銀色の斑紋が浮き出す幽玄な天目茶碗は、古来多くの人々を魅了してきた。室町将軍家の道具類を解説した『君台観左右帳記』では「無上」「世上になき物」「萬疋」など最上級の評価が与えられ、その所持者には室町将軍家、織田信長、徳川将軍家など時の最高権力者たちが並ぶ。明治・大正以後その存在は茶人や陶芸家に広く知られるようになり、多くの陶芸家がその再現を試みたが、長きにわたって「曜変」の製法の秘密が解明されることはなかった。

現在その秘密に最も近づいているが九代・長江惣吉である。長江は父である八代惣吉から数えると半世紀以上に亙って「曜変」の再現を続けて来た。若いころから「曜変」を焼いた中国福建省建窯の窯跡をくまなく調査し、現地の陶土や釉の材料を入手して焼成実験を繰り返した。その結果、窯の中で発生したフッ素ガスの影響で光彩と斑紋が現れることを突き止め、伝世の「曜変」に限りなく近い作品を、世界で初めて焼き上げた。さらに、再現実験の過程で「曜々盞」など長江独自の魅力的な作風も生み出している。近年は「曜変」の故郷である建窯でも制作を行っているが、今次展覧会は建窯での作品の日本国内初公開となる。

沖縄県立芸術大学 教授 森 達也


玄羅アートで2回目の個展をさせていただくこととなりました。
皆様に金沢でお目に掛かるのが楽しみです。
私の中国との 20年余の交流が実り、昨年9月に国宝の曜変の故郷、中国・福建省の建窯に私の作品展示ギャラリーが開店いたしました。
その名も「曜変之路」、大規模で現代センス溢れる空間です。
「曜変之路」を拠点に中国各界との交流を広げる中、私は本年の春から夏に建窯の陶芸工房2軒にて作品制作を行いました。
宋代に曜変が生み出された建窯の地での作陶は大いに心躍るものがあり、新たなる作品分野を切り拓くことが出来ました。
日本では初めて玄羅アートにおいてその成果を展示いたします。
ぜひ皆様のご高覧をお願い申し上げます。

九代・長江惣吉 拝


略歴

1963年
瀬戸の累代の染付磁器の窯屋の素山窯に誕生
1983年
瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科卒業
1985年
大阪芸術大学芸術計画学科中退、家業の染付磁器の素山窯に入る
1995年
父の八代・長江惣吉の死去に伴い、父のライフワークの曜変再現研究を継承
1996年
曜変が宋代に焼成された福建省建陽市で開催の「中国古陶磁研究会・17次国際討論会」に招請を受け「瀬戸天目陶瓷」論文発表、建窯窯址を調査
1997年
建窯窯址を調査、建窯窯址の発掘保存事業に協力、建陽市政府より表彰。これ以降、現在までに40余回建窯窯址を訪問調査
1998年
九代・長江惣吉を襲名
1999年
日本陶磁協会機関誌「陶説」に「曜変考」掲載、以降「陶説」誌に論説を掲載
2001年
福建省の建窯窯址で、宋代に曜変に使用の粘土と釉薬原料を調査・採掘、輸入
2003年
NHKハイビジョンスペシャル「幻の名碗 曜変天目に挑む」出演
2010年
東洋陶磁学会研究会にて「曜変の再現研究」発表
2012年
瀬戸市瀬戸蔵ミュージアム「ルスと呼ばれた焼き物、近世瀬戸の新たなる試み」展
企画提唱 開催
東洋陶磁学会に「宋代建盞の光彩の研究」論文、論文集掲載
中国中央電子台(CCTV)「瓷路」出演
中国景徳鎮市にて開催の「古陶磁科学技術国際討論会」にて
『曜変の光彩の再現研究』論文発表
2013年
愛知県長久手市 名都美術館「長江惣吉作陶展・曜変天目の再現と創作」展 開催
2014年
中国・杭州訪問 世界で初めて発見された曜変の陶片(南宋宮廷遺跡出土)を観察
2015年
上海で開催の「古陶磁科学技術国際討論会」『茶洋窯の灰被天目の研究』論文発表
2016年
NHK・ETV特集「曜変~陶工・魔性の光彩に挑む」に出演
2017年
金沢・玄羅アートにて個展開催
瀬戸市美術館にて「曜変 長江惣吉」展開催
福建省建陽市で開催の「建窯建盞文化和産業発展学術研討会」に招請 研究発表
2018年
名古屋「アートサロン光玄」にて個展開催
TBSテレビ「クレイジージャーニー」出演
中国福建省建陽に長江惣吉作品の展示ギャラリー「曜変之路」オープン
「古陶磁科学技術国際討論会」論文集に「国宝の曜変の分析と検証」掲載
2019年
インドネシア政府より長江惣吉作「曜曜盞」がローマ法王に献上
愛知県文化芸術選奨文化賞受賞
福建省建窯にて作陶交流

柴田雅章

2019年5月25日(土)〜6月18日(火)

この度、玄羅アート 黒谷政人さんの熱意溢れるお誘いにより個展を開催させていただくことになりました。金沢は、私にとって全く初めての地ですが、どのような答えが待っているのか楽しみです。

灰釉スリップウェアを中心に丹波の空気をお届け出来たらと思います。皆様のご来場をお待ち申し上げております。

柴田雅章


スリップウェアの名手

「人間の暮しにとって、大切な物、本当に必要な物は何であるのか。そんなことを考えながら、仕事をして行きたいと思っております」(昭和55年度日本民藝館展「受賞者のことば」)と語るのは、若き日の柴田雅章。ここに、私は氏の人間としての良心と、作陶家としての原点を観る。

学生の頃、柳宗悦や河井寬次郎の言葉に強く心を揺さぶられたという柴田。天賦の才に依らずとも、健やかな心と確かな技をもって、天然の材料を活かしきる仕事をすれば、個人の力をはるかに超えた美しい品物を生み出すことが出来ると、柳は民藝美論を説いた。柴田はこの美論を信奉し、「仕事が暮らし 暮らしが仕事」との河井の詩句を心の支えにしながら、弛まず作陶家としての道を歩んできたのである。

丹波篠山に築窯して44年。日本を代表するスリップウェアの名手として知られる柴田は、「器というものは、あくまでも人間と一緒に暮らすもの」と語る。その手から生まれる器はまさに自然の恵みの結晶であり、日々の暮らしに潤いと彩りを添えてくれるはずだ。

世の中に多くの物が氾濫し、暮らし自体も混乱している現代。あるべき工芸の姿や作り手の精神を体現する柴田の存在は、我々にとっての希望の灯であり確かな道標である。

「天然に従順なるものは、天然の愛を享ける」柳宗悦

杉山享司(すぎやま たかし)


略歴

1948年
東京都生まれ
1971年
中央大理工学部工業化学科卒
丹波・生田和孝氏に師事
1972年
磐田・鈴木繁男氏訪ね、以後、教示を受ける
1975年
丹波・篠山町にて築窯
1977年
日本陶芸展初入選以後入選多数
1979年
国展新人賞受賞
1980年
日本民藝館奨励賞受賞
1984年
大阪日本民芸館の展示に初参加(1989年〜2011年展示主任)
1986年
国展会友優作賞
1987年
国画会会員推挙
2001年
イギリス・ブラックウェルの国展工芸展出品
2003年
「英国の古陶・スリップウェア」展開催、図録出版に協力
2005年
築窯30年記念「灰釉スリップウェア」作品集刊行
2008年
この年より日本民藝館展審査員
2009年
ギャラリー・セントアイヴスにて
「柴田雅章クライブ・ボウエン二人展」以後隔年
2011年
21回日本陶芸展招待作家(以後第22回、23回、24回)
2013年
国画会退会
2018年
阪急うめだ本店にて個展(1985年より開催)

吉田喜彦

2018年9月7日(金)〜9月18日(火)

やきものの里・美濃で、さまざまな喧騒から離れ、独り静かに作陶に向き合ってきた老陶芸家がいます。眼に適った美しいものを身近に置き、深い精神の呼吸をし、器物を生み出す。表皮だけのものづくりが幅を利かせる世にあって、稀有な存在です。器であって、器でない。悠久の時間軸をもって、生み出された器物の美の力を感じていただければ、幸いです。

2017年DMより


略歴

1936年
宇都宮生まれ
1956年
荒川豊蔵のもとで作陶修行を始める。
1969年
独立し、個展を発表の場にする。
1988年
アメリカ・ポートランド美術館「現代日本陶芸展」出品。
1995年
イギリス・ビクトリア&アルバート美術館「JAPANESE
STUDIO CRAFTS」展
2014年
日本橋・壺中居で個展、世田谷美術館で「陶芸家・吉田喜彦」展
2015年
岐阜県現代陶芸美術館で「吉田喜彦とうつくしいものたち」展
2016年
益子陶芸美術館で「益子と美濃を結ぶ陶芸家・吉田喜彦」展

作品収蔵

東京国立近代美術館、大阪市立東洋陶磁美術館、栃木県立美術館、ビクトリア&アルバート美術館、ギメ東洋美術館、ダラス美術館、岐阜県現代陶芸美術館、神奈川県立近代美術館、大分県立美術館 等

戸田浩二

2020年9月5日(土)~22日(火)

奈良法隆寺の「木造百済観音」の魅力は、その水瓶を待つ指の美しさにある。水瓶には浄化され、霊性を帯びた聖水が入っている。しかし、親指と中指に挟まれた水瓶は、じつに軽やかである。この水瓶の玉子形の胴と細い首の微妙なバランスを表現するには、かなり高度な技術を要する。戸田の焼締陶は、金属器のように薄く、美しいフォルムを形成している。しかも、その質感は金属器よりも温かくやさしい。その理由は、自分で北茨城や桜川から採ってきた土にこだわって成形しているからだ。戸田は「古代から続く美しいものが醸し出す姿に憧れを感じて、その存在感に見えないものへの祈りを感じます」という。作品の中には、聖水を受けやすいように口が大きく広がった水瓶や、聖水を貯えて肩が大きく膨らんだ瓶子がある。戸田の祈りのかたちは、単に外部の 造形にある訳ではない。それは、内に貯えられた聖水によって生まれてくるのである。故に、清涼感に包まれ凛としているのだ。今展には、そうした新作の水瓶、瓶子、香炉など20点余が出品される。

美術評論家 日本陶磁協会常任理事 森 孝一


古代から続く
美しいものが醸し出す姿に
憧れを感じて、
その存在感に見えないものへの
祈りを感じます。
今、この瞬間に静かで
緊張感のあるものを
自分なりに表現したいと
思っています。

戸田浩二


略歴

1974年
愛媛県西条市生まれ
1996年
筑波大学体育専門学群 卒業
2002年
茨城県笠間市に薪窯を築く
2010年
祥雲(銀座)(2015、2019)
2011年
アートフェア東京(2013、2017)
2012年
東美アートフェア(2014、2019)
2013年
思文閣(京都)
2016年
メイファールアン財団(タイ)(2017)
2017年
LIXILギャラリー「‐聖水‐」(京橋)
MIKA GALLERY(NY)
2019年
「土と抽象」記憶が形に生まれるとき (益子陶芸美術館)
2020年
アート玄羅(金沢)
NY・東京を中心に毎年個展・グループ展を開催

〈収蔵美術館〉

プリンストン大学美術館(USA)
デトロイト美術館(USA)
イェール大学美術館(USA)
茨城県陶芸美術館

瀧川恵美子

2018年7月6日(金)〜24日(火)

瀧川さんの仕事

私は瀧川恵美子さんに会ったことはないが、その作品は各所で拝見している。

道具屋さんや愛陶家の家で眺め、友人から貰った絵志野の筒の向付で時々酒も飲んでいる。瀧川さんのやきものに接すると、私はいつも「いいなあ」と思う。上手いと思う陶芸家は沢山いるけれども「いいなあ」と思う作家は稀である。「いいなあ」と「上手いなあ」という印象はどう違うかと言えば難しいが、作る人の愛情のようなものにかかわってくるのではないだろうか。

瀧川さんの庶幾するやきものは、言うまでもなく桃山時代の美濃の陶器であるが、瀧川さんの作品には桃山の陶器が好きで好きでたまらないという愛情が感じられ、それが人の心を打つのである。桃山の陶器に近づこうという仕事ではなく、桃山の陶器になろうとしている仕事だ。近づこうという仕事はあっちに行き、こっちに行くためらいのようなものが感じられるが、なろうという仕事は一直線である。不乱である。私がいいなあという気持ちはそこに発しているようだ。

桃山から江戸初期の美濃陶は、危険なやきものである。厚化粧という言葉があるけれど、厚化粧の本人はみずから厚化粧とは気付いていないように、志野の長石釉をドロドロに掛けたり、織部の毒々しい緑釉に乱暴な鉄絵を施したりするのが平気になってくることが多いようだ。瀧川さんの仕事は一直線で、奔放ではあるけれども、鏡に映った己の姿を冷静に眺めるように、自分の作品をきちんと見ているように思われる。聡明な仕事である。

瀧川さんの次なる課題は「超える」ことだと私は思う。「なる」仕事から「超える」仕事となると、ますますわずかな人しか果たしていない仕事である。しかし、瀧川さんはその可能性を持った方だと思う。課題などと偉そうな言い様で恐縮だが、高い山を悠々と超えて飛ぶ雁の如く、瀧川さんが自由な境地であそばれることを願う。

古美術評論家 青柳恵介


桃山陶の古里、美濃の地に暮らし、焼き物と接する仕事をしてきました。桃山陶工の息吹を感じる土地。途絶えていた絵志野の文化に惹かれ、絵志野、織部の現在の在り方を志す道を歩んでいます。

桃山陶工が今に生きていたら、どのような器を作っているのだろうかと、考えます。絵志野の器物としての美しさは、吉兆の故湯木貞一さんの懐石料理が盛り付けられた姿に端的に現れていました。人の豊かな食の場を彩ること。器を生き生きと存在させる仕事が出来たとき、陶工としての自分の存在に幸せを感じます。

このたび、金沢で、北陸で初めてとなる個展を開催させていただきます。お茶席や日々の暮らしの中で生かしていただきたい器をご用意いたしました。楽しんでいただけたら幸いです。

瀧川恵美子

吉田 隆

2020年6月1日(月)〜30日(火)

目に見えない美しいものをつかみ、この世界に誕生させる。見えなかったはずの形が、彫刻家がたたずむ静かな思索の野原に、姿を現してくる。「わたし」という独りしか感じられない無限空間の中に、独創のひらめきが潜んでいる。その世界へのアプローチは、誰にもまねできない。吉田隆という彫刻家の仕事は、常に無限を見ている。

20世紀を代表するイタリア人彫刻家クロチェッティに学んだ創作することの感覚は、今に至る基礎だ。1本の線、空間意識が創る造形。研ぎ澄まされているとは何か、という問いにこたえた表現がある。

昨秋、ローマにあるクロチェッティ美術館での個展を請われ、創作の道程を示した。作品にある具象と抽象の親密な関係は独自の視線である。得られた高い評価は、質実な仕事をしてきた日本人の弟子の存在感を十分に伝えた内容となっていた。

今展は、「玄羅」で2018年秋に開催したクロチェッティ美術館個展開催記念展に続く帰朝報告展の性格を持ち、新作を含めた作品を紹介する。

2018年DMより


略歴

1953年
石川県七尾市に生まれる
1975年
金沢美術工芸大学彫刻科卒業
1976年
同大学彫刻研究科修了、渡伊
1979年
ダンテ国際ビエンナーレ、イタリア
1980年
国立ローマ・アカデミア、クロチェッティ教室卒業
1982年
第2回高村光太郎大賞展でエミリオ・グレコ特別優秀賞を受賞
1986年
第1回ロダン大賞展で優秀賞
1987年
兵庫県彫刻コンペティションで優秀賞
1988年
第2回ロダン大賞展で彫刻の森美術館賞
1993年
現代彫刻展・フジサンケイ・ビエンナーレで美ヶ原高原美術館賞
1997年
米国・モントレージャズフェスティバル40周年記念モニュメント設置
2000年
公立能登総合病院に「海の神」設置
2004年
山梨学院大に「勇者の詩」設置
2006年
韓国・金泉市に「月の見た夢」設置
2011年
金沢市大乗寺公園に「宇宙の卵」設置
2019年
ローマ・クロチェッティ美術館で10月に個展

伊津野雄二

2020年3月1日(日)〜19日(木)

歌うように 語るように
微笑む春が走る
灰緑の描線をのこし
今 追いつけぬなら
けっして追い越してはならない
秋に足をとられ
冬に抱きとめられようと
僕はといえば
周回おくれの夏を肩に
萌葱色の足跡をたどる

2020 春 伊津野雄二


略歴

1948
兵庫県生まれ
1969
愛知県立芸術大学美術学部彫刻科中退
1975~
1988 知多工房として個展
 

[彫刻展]

1997
豊田市美術館ギャラリー(愛知)
2000~
名古屋画廊(愛知)
2001~
ギャラリー椿(東京)
2004
日本橋高島屋 (東京)
2008~
新潟絵屋(新潟)
2009~
ギャラリー島田(兵庫)
2017
東御市梅野記念絵画館(長野)

六田知弘

2020年11月27日(金)~12月25日(金)

地空の間
地と空のゆらぎの間で明減する現象世界
澄み透った闇の中、我々は何にむかって祈るのか


写真展

2007年
国立西洋美術館で「祈りの中世 ロマネスク美術写真展」を開催。
2008年
中国の「雲岡石窟」の全容を撮影し、2011年写真展「雲岡 仏宇宙」(繭山龍泉堂)を開催。
2009年より
写真展「サンティアゴ巡礼の道 六田知弘 東洋のまなざし」が世界各地を巡回中。
2011年
震災後の東北地方にて、津波にのまれ打ちあげられた被災物を撮影し、2013年より写真展「時のイコン–東日本大震災の記憶」として相田みつを美術館や渋谷区立松涛美術館など、国内外を巡回。
2014年
大阪市立東洋陶磁美術館で「蓮–清らかな東洋のやきもの×写真家・六田知弘の眼」を開催。
2017年
大阪と奈良県御所市にて「写真家 六田知弘 宇宙のかけら–御所GOSE」を開催。
2018年
静岡県の池田20世紀美術館にて 六田知弘写真展「壁・ヒミツノアリカ」を開催。
2020年
六田知弘写真展「仏宇宙」を相田みつを美術館で開催。

そのほか、国内外の美術館やギャラリーなどでの個展多数。


写真集

『石と光 シトーのロマネスク聖堂』(平凡社刊) / 『時のイコン 東日本大震災の記憶』(平凡社刊)『ロマネスク–光と闇にひそむもの』(生活の友社刊) / 『仏宇宙』(生活の友社刊)など多数。1956年奈良県生まれ。


略歴

1982年より
ネパールヒマラヤ山中のシャルパの村に暮らして撮影。
1988年
初個展「ひかりの素足–シェルパ」(新宿ニコンサロン)を開催する。

以降、「自然や宇宙と人間との根源的なつながり」を遠くに探りながら、モノ、風景、石、水、壁、人、文化財や遺跡、古美術品など様々な事象を対象に撮影し、写真展や出版を通じて発表する。

若島孝雄

2020年10月24日(土)〜11月3日(火・祝)

若島孝雄は漆塗りの産地・輪島で生まれ、18歳のときに、この道に入りました。今、85歳。輪島でも最高齢の部類に入る職人です。頑固で、自分自身の仕事に対する自信は強く、真塗りの美しさでは誰にも引けを取らないと自負しています。

技術は抜群。髹漆(きゅうしつ)を極めた重要無形文化財保持者・赤地友哉らに教えを請い、無心に技を磨いてきました。茶道具に才気を発揮してきましたが、晩年は日本工芸会からも離れ、好きなものを作るといって、漆と向き合います。

ときに、探算は度外視。納得できる作品をこの世に残したいと願っているこの頃です。

作品には格調があり、漆を施した器物の美しさというものを実感できます。伝統という強い力にのっとった自信作を並べます。確固たる思いで作られた秀作です。感覚は常に若々しく意欲的です。

今回が最後の個展となるかもしれません。漆芸という世界が持つ美の訴えを見ていただけたらと思います。


略歴

昭和10年
輪島市に生れる
昭和29年
慶塚漆器工房に弟子入
昭和33年
家業を継いで自営
昭和53年
第12回 全国漆器展
最高賞 農林大臣賞 受賞
昭和58年
第30回 日本伝統工芸展 初入選
日本工芸会 奨励賞 受賞
以来 18回入選
昭和59年
石川の伝統工芸展 初入選
以来 15回入選
昭和60年
日本伝統漆芸展 初入選
以来 17回入選
昭和61年
日本工芸会 正会員認定
平成6年
第35回 石川の伝統工芸展
石川県知事賞 受賞
平成8年
石川の伝統工芸展 特待者
平成11年
石川の伝統工芸展 監査委員
平成16年
第45回石川の伝統工芸展
石川の伝統工芸特賞 受賞
平成24年
和紙に漆で描くうるし絵を始める
平成27年
満八十歳を期に日本工芸会を退会
自由な立場で製作を続ける

藤野征一郎

2020年11月7日(土)〜24日(火)

瀟洒な藤野征一郎

藤野征一郎と言えばまずは「Flower」シリーズであるが、それ以外にも実に幅広い作域を持っている。箱形作品もその主要な一つで、「空の敷物」「ニケの箱」「土中の梯」などが今回出品される。それぞれ藤野の特徴と優れた表現を示して余りあるが、なかでも「空の敷物」は出色である。

杉材を用い、グレー色の漆を下地とし、鉛、錫箔、燻した黒色の銀箔、朱色顔料を入れた漆などを用いて精細な質感を表出したものである。「空の敷物」とは空飛ぶ絨毯のことで、蓋表の加飾がそのように見えたことからのネーミングである。確かに蓋表に限らず全体として布を貼り交ぜたようにも見える。それがグレーや茶系の一定のトーンを持った色彩で表わされる。色面の構成という点で見るとジョルジュ・ブラックや佐伯祐三を思わせる、とても瀟洒な感覚を持っている。

この箱には色漆、平文、箔押しなど伝統的漆芸技法がたくさん用いられている。漆芸にありがちなのは、技術力を見せたいのか、各技法を個別に見せようとする。藤野はそれを表現と言う強い意志のもとにコントロールし一体化し融合するのである。モダンで瀟洒な作品が出来上がる要因はここにある。

茨城県陶芸美術館長 金子賢治


漆は隠蔽力がとても弱い塗料であるという、その不自由さといえる特性に私は注目してきました。

漆芸の根幹となる髹漆の技術すなわち、胎となる木材等の緻密な加工、繰り返される下地と塗の積層、加飾による表面の大胆で繊細な変化、それらすべての行程が呼応し滑らかに繋がっていくことを意識して制作しています。

その表層から内面までをも映し出せる表現を求めて。

藤野征一郎


経歴

1972年
滋賀県生まれ
1998年
金沢美術工芸大学 修士課程
美術工芸研究科 修了
2002年
金沢卯辰山工芸工房 修了

主な受賞

2004年
日本クラフト展/東京都 日本クラフト大賞
2005年
平成16年度石川県デザイン賞
国際漆展・石川2005 特別賞
2011年
工芸都市高岡2010
クラフトコンペティション 奨励賞
2020年
国際漆展・石川2020 奨励賞

主な展覧会

2020年
北陸のうつわ展―19人の素材とかたち
(伊丹市立工芸センター・兵庫県)
2019年
したたかな鼓動 藤野征一郎・西村大樹
稲吉オサム (Gallery O2 金沢)
2019年
公募展 金沢・世界工芸コンペティション (金沢21世紀美術館)
2018年
“FLORA&FABLE”(Gallery 8, London)
2018年
漆の現在2018展(日本橋三越本店・東京都)
2016・2017年
Exhibition“Lackkunst Junger Japanischer Kunstler”
(Galerie Marianne Heller, Germany)
2013年
REFLECTING NATURE(GALLERY27・London)

石川九楊

2020年7月10日(金)〜8月31日(月)

常に、書とは何かを問うこと。
書の歴史、幾多の書論を解剖し、書によって成り立つ独創の世界観を再構築してきた。
現代を代表する書家の筆法は、鋭く理が、深く情が貫く。
書は、言葉から生じてくる。また、書くことすなわち筆蝕のなせる複雑さ、妙味が文字と言葉を生み出してくる。
「肉筆の書きぶりの中に書の生命があり、書の美の秘密も眠っている」と、書家はいう。
書にある玄なるもの。今ある規定にとどまらない筆の行き先。
絶えず、拓いていく可能性を見いだした書が、目の前にある。


略歴

1945年
福井県生まれ。
書家。京都大法学部卒。
京都精華大教授、同大文字文明研究所所長等を歴任。同大客員教授。
2017年
「書だ!石川九楊展」(上野の森美術館)
2019年
「第二楽章~書だ!石川九楊展」(古川美術館)

主著に「書の終焉―近代書史論」(サントリー学芸賞)、「日本書史」(毎日出版文化賞)、「近代書史」(大佛次郎賞)、「一日一書」「日本語とはどういう言語か」「石川九楊著作集」(全12巻)、作品集「歎異抄―その二十の形象喩」「KYUYOH ISHIKAWA(アートランダム77)」


略歴

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